デジタルビジネス・マネジメント分野
甫喜本 司
教授
Tsukasa Hokimoto
E-mail:
hokimoto@do-johodai.ac.jp
キーワード
統計モデル,統計数理,データ解析
高校,あるいは大学の初年度において,統計や確率に関する基本的な見方,および情報処理の基礎を学んでいることが望ましいですが,学んでいなくてもその後の学習で準備できます。むしろ,自分の知らないことを積極的に学ぶ知的好奇心,あるいは困難なことにも粘り強く向かっていく強さが重要になります。
世の中で発生する様々な現象を科学的視点からみることができ,説得力のある評価をすることができるようになります。数的な理解に基づいて思考していく能力の養成が主となりますが,その過程で観測値の柔軟な情報処理能力も身についていきます。
本研究室では,現象の統計的・確率的な特性のモデル化に関する基礎研究と,実現象の解析に向けた応用研究を行っています。また,理論で十分に解明できない点について,計算機を用いた数値的方法も援用しながら目に見えない構造を推測します。こうして開発されるモデルは,現象の知識の獲得や問題の解決,あるいは計算機を用いたシミュレーションや予測といった実際面の問題へ応用することを通して,現象の知を獲得するための手がかりとなります。
統計や確率に基づく様々なモデル化の考え方は1960年代頃から本格的に研究が始まり,様々なものが提案されてきましたが,このようなモデルはどのようなデータに対しても合理的な結果を与えるという保証がなく,様々な情報が多様化・大規模化する現状において,万能なものというわけではありません。こうした観測値から有益な情報を引き出すために,今後もモデル化の見方を洗練させていく必要があります。 研究対象は時間的・空間的な観測情報を主に行っており,分析対象の現象として自然,金融に関する投資行動,環境,生態に関係する諸現象が中心です。近年行った研究の主なアウトラインは次の通りです。
1. 非定常なスペクトル構造(時変型スペクトル)の推定
2. 複数の予測量の合成による予測性能の改善
3. 方向属性をもつ時空間データのモデル化と推定
4. 構造変化を伴う時系列モデル (非斉次型マルコフスイッチングモデル)
5. 統計的フィードフォワード・フィードバック制御系の改良
1. 気象・海象
2. 海洋環境 (プランクトンの増殖現象,回遊魚の移動経路の推測)
3. 株価変動の予測 (高頻度データの解析を含む)
4. 食品機能性評価
5. マテリアルインフォーマティクス
6. 新型コロナウイルスの感染者変動の予測
現在関心をもっている研究対象の一つに,時空間(3次元)データのための時空間統計解析(spatio-temporal statistical analysis)があります。自然科学では研究が進んでいますが,時間と空間の関係性の捉え方には様々な可能性があり,発想を変えることで推定精度の向上につながると考えています。また,自然現象や社会現象などに応用することで,新たな現象の知見が発見できることが期待できます。
近年,マレーシアでHazeとよばれているPM2.5大気汚染の分析例を示します。PM2.5の大気質指数(AQI)に関する時空間データ(上段の左図)より緯度,経度,時間に基づく傾向を除去し,セミバリオグラム(上段の右図)をみると,500km程度離れた場所において6日間程度前との間に高い共分散が認められます。これは時間と空間の観測値を共に考慮するとPM2.5の予測効率が改善する可能性を示唆します。そこで,時空間構造をもつ一つのモデルを推定し予測した結果を下段左図に示しますが,7/20のように,前日から状況が変わる場合に柔軟な予測ができるとは限りません。このような弱点を改善するため,構造変化を念頭においた時空間相関構造をモデルに考慮して予測の改善を行うことを検討しています。
1. T. Hokimoto, A Non-homogenous Hidden Markov Model for Statistical Evaluation of Food Functionality, 5th International Conference on Business and Industrial Research, 41-45, Bangkok, Thailand (2018)
2. A. Miura, T. Hokimoto, M. Nagao, T. Yanase, T. Shimada, K. Tadanaga, Prediction of Ternary Liquidus Temperatures by Statistical Modeling of Binary and Ternary Ag-Al-Sn-Zn Systems, ACS Omega, 2(8), 5271-5282 (2017)
3. T. Hokimoto and H. Kiyofuji, Effect of regime switching on behavior of albacore under the influence of phytoplankton concentration, Stochastic Environmental Research and Risk Assessment, Vol. 28, Issue 5, 1099-1124 (2014)
4. T. Hokimoto and K. Shimizu, A non-homogeneous Hidden Markov Model for predicting the distribution of sea surface elevation, Journal of Applied Statistics, Vol. 41, No. 2, 294-319 (2013)
5. T. Hokimoto and K. Shimizu, An angular-linear time series model for waveheight prediction, Annals of Institute of Statistical Mathematics, 782-800 (2008)
初期の段階では,研究を自分の力で進めていくための基礎を固めることに重点をおきます。定期的なゼミを通して,科学の観点から検討するための進め方や,その背景となる学術的な基礎を学びます。その後,自分が関心をもった研究課題について,研究者としてのオリジナリティを大切にしながら研究作業を進めていくことができるようにアドバイスを続けていきます。当該分野の研究手法は方法の高度化が進み,新しい見方を開発するためには,新しい発想の導入や様々な試行錯誤が避けられません。十分な打ち合わせを重ねながら,自身で研究成果を得ることができるようにサポートします。