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- 2026.10.30
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「自分がやらなかったら、誰がやるのか」――栗原純一教授(システム情報学科)がHSFC GAPファンドに本学初採択 リンゴ腐らん病を見える化し、起業を目指す
本学総合情報学部システム情報学科の栗原 純一(くりはら じゅんいち)教授の研究開発課題が、北海道未来創造スタートアップ育成相互支援ネットワーク(HSFC、通称エイチフォース)が運営する2026年度「GAPファンド」に採択されました。本学からの採択は今回が初めてです。
GAPファンドは、大学の研究成果を事業化につなげるための資金で、研究と事業のあいだにある「ギャップ」を埋めることを目的としています。
栗原教授は、リンゴの病気「腐らん病」を見える化し、果樹農家が手軽に診断できる製品の開発と起業を目指します。
「研究者は商売をしてはいけない」と教えられて育った栗原教授が、なぜ起業を決意したのか。その経緯と思いを伺いました。
人の目には見えない病気を「見える化」する
リンゴの「腐らん病」は、枝や幹の樹皮が腐っていく病気で、放っておくと樹そのものが枯れてしまうこともあります。早く見つけるには熟練の目が必要で、農家の方のあいだでも「10年やれば見えるようになる」と言われるほどです。
栗原教授は、人工衛星やドローンを使ったリモートセンシング(離れた場所から対象を観測する技術)の研究者です。今回の技術では、光を細かな色(波長)ごとに分けて撮影する技術を使い、人の目には見えない病気のサインをとらえます。スマートフォンのカメラで病気を判定するアプリは数多くありますが、判定できるのは人の目に見えるものに限られます。熟練の目を養う年月をかけずに、誰もが病気を見つけられるようにする。それがこの技術の狙いです。
製品化の鍵になるのが、撮影に使う端末です。果樹農家へのヒアリングを重ねながら、10万円程度で手に入る端末を目指して開発を進めます。
HSFCのGAPファンドは、北海道大学を中心に道内の大学や高専が参画する大学発スタートアップ支援の仕組みで、国(科学技術振興機構:JST)の事業として運営されています。本学も参画機関の一つです。栗原教授の課題は、地域社会への還元と持続的な成長を目指す「ゼブラ型」のコース(ステップ1・Z型)で採択されました。
――本学からは初めての採択と伺いました。今のお気持ちを教えてください
実は3回目の挑戦なんです。三度目の正直ですね(笑)。内容は1回目から同じで、もちろんブラッシュアップを重ねてきました。本学では第1号なので、「ぜひ大学の宣伝に使ってください」とずっと言っているんです。特許のことなど、大学にもいろいろと負担をおかけするので。

「商売をしてはいけない」――研究者一家に育って
――もともと起業は考えていなかったそうですね
祖父から始まって、両親も元研究者なんです。祖父も両親も楽しそうに研究をしているのを見て、家業を継ぐような感覚で、自分も研究者になるのが当たり前だと思っていました。
祖父には家訓がいくつもあって、その一つが「商売をしてはいけない」。
商売っ気があると研究者の目が濁って、本来見なければいけないものが見えなくなる、という教えです。研究者はどれだけ偉くなっても儲からないんですよ。ノーベル賞の先生でも、大豪邸に住んでいるわけじゃない。研究職を目指すと決めたとき、苦労してきた祖母からは「お金儲けは諦めなさい」と言われました。だから、起業なんてしてはいけないというのは、骨身に染みているんです。
それに、大学の先生が会社をつくってうまくいかなかった例も身近で見てきました。ある起業家の方の講演では「大学の先生は自分の分野ではすごいかもしれないけれど、起業の勉強はしていない。サッカー選手が野球をできないのと同じです」と話していて、まさにその通りだと思いました。だから、起業には絶対に手を出さないと決めていたんです。
「自分がやらなかったら、誰がやるのか」――リンゴ農家の声
――それでも起業を決意したのはなぜですか
3年前、共同研究をしている弘前大学の先生から、青森県の板柳町で開かれる市民向けのイベントで話をしてほしいと頼まれました。リンゴの栽培に関わる研究を紹介したら、来ていたリンゴ農家の方に「その研究はいつ実用化されるんですか」と聞かれました。起業するつもりはなかったので「やっても最低2、3年はかかります」と答えたら、「このままだとうちは廃業してしまうかもしれない。それくらい深刻なんだから、真剣にやってもらわないと困る」と、逆に怒られてしまいました。
みなさん津軽弁で、弘前大学の先生が時々通訳してくれるのですけど、私にはずっと怒られているように聞こえていました(笑)。
そのとき、大学の研究成果はこうやって埋もれていくのだと痛感しました。大学の先生は、研究が自分の業績になればそれで満足してしまう。すごい研究なのに、少し発表されただけで使われないまま大学に眠り、いざ使いたいと思ったときにはその先生ももういない。陽の目を見ないまま消えていく。
それまでは、どこかの企業の方が私の研究を見つけて「使わせてください」と言ってくれたら、くらいに思っていました。でも、目の前に「やってもらわないと困る」という生産者の方がいる。自分がやらなかったら、誰がやるのだろうと。
近年のSDGsの流れのなかで、自分の研究も将来に向けて何か貢献できないか、とずっと思っていたことも根底にあると思います。誰にも使われず、誰にも貢献できずに終わっていいのか、と。
偶然のようで、必然の「ご縁」
栗原教授は、大学の仕事を続けながら事業を立ち上げるため、経営は別の人に分担する道を選びました。昨年度は、北洋銀行の子会社の北海道共創パートナーズ(HKP)による研究者と経営者候補を結びつけるプログラム「NEXUS:S」に参加。関わりたいと手を挙げた方々との面談を経て、今はその中のお一人に経営者候補として加わってもらっています。知的財産の戦略も、北海道経済産業局の支援プログラム「IP BOOSTER HOKKAIDO」で弁理士の助言を受けながら練ってきました。
――お話しをお聴きすると、多くのご縁に導かれてここまで来られたように感じます
私は計画性のない人間で、気ままに生きてきました。小さいころに研究者になると決めた以外は、こうなりたいというものもなく、偉くなりたいとも全然思わない。ただ自分の好きなことをやっていたい、それが一番幸せだから。
でも、自分が重ねてきた小さな選択が、つながって、今こうなっている。偶然だけど必然なのではないかと思うのです。この大学に来たのも、きっとそういうご縁があったのでしょう。そういうチャンスがあるなら、やろうと。行き当たりばったりですけど、このような出会いがなかったら起業はしていませんでした。
まずは1年でプロトタイプを農家の手に
――これからのスケジュールを教えてください
今日からGAPファンドが始まったので、まずはそれを頑張ることです。GAPファンドではさまざまな支援も受けられるので、最大限に活用したい。それだけでは資金が足りないので、出資を受けることも視野に入れています。起業は必ずしなければいけないと思っていますが、時期はまだはっきり言えません。その前に信用を勝ち取らないといけない。先は長いですが、スピードが勝負なので急がないとなりません。
――農家の方が実際に使えるのはいつごろになりそうですか
実用化までは、あと2年。その手前に1年以内にはプロトタイプを触っていただけるようにしたいです。PoC(Proof of Concept 概念実証)といって、プロトタイプを農家の方に使ってもらい、「こんなのダメだ」となるのか、「これはいけるね」となるのかを確かめていきます。
学生と、本学を目指す皆さんへ
――起業を志す人に、参考になる言葉はありますか
成功した起業家の方に「どうしたらうまくいくんですか?」と直接聞いたことがあります。そしたら「どうやったらうまくいくかは分からない。でも、これをやったら失敗するというのは確実に分かる。それをひたすら避けていくしかない」と言われました。たとえば、まず事務所を借りない、人を雇わない。固定費をいかに抑えるかです。形が欲しくなって、ついやってしまいがちですけどね。
――起業に関心がある学生へ、エールをお願いします
まだ起業していないので、何とも言えません(笑)。むしろ、すでに起業している学生たちのほうが先輩です。私には教員という職があって、教員を辞めて起業するわけではない。食べていく算段を持ったうえでの挑戦ですから、ずるい。学生の立場で、自分の将来を考えながら挑戦しているのは、本当にすごいことだと思います。
いろいろな大学でアントレプレナーシップ教育(起業家精神を育てる教育)が進んでいますが、起業したこともない人に「起業しろ」と言われても、学生は「うーん」と思うのではないでしょうか。だから教員自身がやって見せる。うまくいかなかったら、失敗も一つの事例になりますからそれでいいと思います。本学にもこういう人がいる、と思ってもらえたらうれしいです。

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